HIPHOP ARTIST KASEKICIDER 類を見ない、他を寄せ付けない存在感と幅広い活動でその動向から目が話せないかせきさいだぁ氏。

何か物を創り出している瞬間

Q. 今、一番楽しいことはなんですか?

90年代、日本のHIPHOPシーンで他のどれとも違う存在感で常にシーンを牽引してきたかせきさいだぁ氏。シーンの幅を広げ様々なジャンルで活躍し続ける氏のクリエイターとしての楽しみとは?

「僕がやっている音楽とか絵というのは、思った時にすぐ形に出来るしミニマムなセットで作れてしまう、なんかそういうダイレクトな面白さがありますね。もちろん最終形態にするには一度形にしたものを試行錯誤を繰り返して何度も形成し直して持っていくのですけど。極端な話、絵とかは鉛筆と紙があればいつどこでも生み出せる。急に浮かんだ瞬間に描き出す事もあります。このBEAMSさんとのTシャツも急に浮かんだのですけど、こういったモチーフでやったら面白いなって。それで描き出して持って行ったらBEAMSさんが賛同してくれて、最終形態になったんですよ。」

インタビュー写真1

コトやモノの始まりは至ってシンプルなんだなと改めて感じた。続けて、意外な事を聞けた

「僕、あんまり仕事を頼まれないんですよ。」

そんなはずは無いなと思いながら続く言葉にしっかり耳を傾けた

「なんか僕、偏屈だと思われているのか自分で全てをやらないと気が済まない奴と思われているのか、お声があんまりかからないんですよね。要はなかなかのとっつきにくい奴みたいな。なので、大抵のプロジェクトは僕が面白いと思ったコトやモノを持ち込んで賛同してくれたら進み出すという事の繰り返しですね。またその循環も良くないと思うんですけどね。苦笑。」
「昔から、そのように何かを創り出す、生み出すことはとにかく大好きなのでその瞬間がたまらく好きですね。多分ずっと変わらないと思います。この気持ちは。」

個性派というとまた違うし、氏を形容する言葉として容易な言葉になってしまう。申し訳なくもそんなイメージを持っていたが、とてもシンプルで純粋で真っ直ぐな方の話に冒頭から一気に吸い込まれてしまう。こんな当時の音楽活動の裏話も

「RUN DMCを筆頭にアメリカのラップカルチャーに憧れて音楽を始めたのですけど、自分の力不足や不器用さもあり、やっぱりあの方達のようにはなれないんです。その中で、出来ない中で自分がどうしたらHIPHOPを僕らしく表現できるかなと、そればっかりをずっと追及していましたね。近くにスチャダラパーという存在がいたので彼達と一緒になって考えていました。」
「色々調べて、De La Soulとかは親父のレコードの棚からレコードを引っ張り出してきて音をサンプリングしてたりとかJungleBrothersなんかは音が悪い曲があって、それは友達のMIXテープから音源を取ってサンプリングしてて。っていう感じで色々出てきて、要は身の周りにあるもので作っていたんですよ。ということは、僕たちも自分の身の回りにあるものを使って表現しようってなったんですよ。それで僕なりに出した答えがこのミスターシティヒップホップです。」

こんな貴重な話が聞けて、素直に嬉しかった。

インタビュー写真2

釣りしてる時ですね。といっても目的は他にあるんですけど…

Q. 贅沢な時間はどのような時ですか?

「子供の頃から釣りが好きです。正直道具とか、ポイントとかにすごく凝っているわけではないんですよ。どちらかというと、散歩のついでというか。実は、川に浸かってるのが好きなんですよ。1日中川に浸かってれば十分なくらい川が好きです。それで、暇だって事で釣りをしてるんです。ルアーだと待ちの釣りじゃなく常に動かしているのでいいんですよね。」

釣りにハマるきっかけが、初めて聞く内容で氏の視点の広さを感じる。
さらにこう続けてくれた。

「わざわざやるという事が僕向いてなくて、気楽に出来る事が好きだし長続きするんですよ。僕は。釣りにしても、湖に行ってボート乗ってやったりするのもいいんですけど、僕はそのうちやらなくなってしまうんですよね。失礼かもしれないんですけど、わざわざやることじゃなく、気楽に長く楽しみたいというのが前提にありますね。」
「散歩がてら、多摩川に釣りに来て二子玉で買い物して帰る。そのルーティーンが好きです。なので、本当は膝ぐらいまで浸かりたいのですが、それ用の長靴を履いてしまうと帰りに買い物にいけないので、買い物に行けるブーツを履いて少しだけでも浸かります。どこも寄らないって決めた時は長靴を履くときもありますけど。それぐらい気楽に身近な感じで釣りを楽しんでます。そもそも僕は川に入れればいいわけですからね。笑」

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今のところの僕の完成形を作ってくれるネクタイと腕時計

Q. 大切にしている思い入れのあるアイテムはありますか?
    また、それはどんなものでしょうか?

当時は色々なファッションをしている印象だったが、色々経て今のスタイルに行き着いたという

「35歳くらいから、いわゆるストリートのスタイルがしっくりハマらなくなったのを感じてきて、シャツを着るようになったんですよ。そうするとネクタイを締めようかなと。普段全然アクセサリーをつけないんですけど、そうなると腕時計はした方が良いかなと思って。ネクタイと腕時計を付けるようになって、今のスタイルに行き着きましたね。」

インタビュー写真4

とてもシンプルで氏らしい考えのもと今のスタイルになったという。そこには、もっとシンプルだけど深い理由もさらにあった。

「ずっと、いつでも買えるもの。要は定番なアイテムが好きです。洋服も同じような物しか今は持っていないです。シャツもこのボタンダウンの物。色違いか長袖か半袖ぐらいの違いがある程度です。デニムも一緒でこのデニムが今の気分です。ボロボロになったらまた新しい同じものが買えますしね。」
「昔はそれこそ色んな洋服着ましたけど、その年齢を境に好きだったものが次買えなくなったりとかがスゴく悔しくなってしまってきて、もっと買っておけば良かったとか後悔をするのが嫌になって。だったらと思って常に買えて形も普遍的なベージックなものにしようと思ったんですよ。」
「何年か前に山下達郎さんの20年分くらいのLIVEの映像を元とした映画があったんですよ。驚愕しましたね。山下さんのLIVEの衣装が全部同じなんですよ。赤いシャツに新品のセンタープリーツのデニムを履いていて。それにスゴく感銘を受けて、それからLIVEでは常に同じスタイルで臨んでいます。昔はどんなスタイルしようかなとか悩んでいたのですが、今のスタイルに決めちゃいました。それからある意味スゴく楽になりました。」

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ある事を悟られない為のサングラスです。笑

Q. 共に過ごしてきた思い入れのものはありますか?

氏のスタイルに欠かすことの出来ないアイテム。サングラスには意外な理由が隠されていた。

「サングラスはずっとかけていますね。LIVE中もレコーディング中も。」
「実は僕、小心者なのでLIVE中にお客さんと目が合うのが恥ずかしいんですよ。苦笑。それでサングラスをかけるようになりました。2回ほどかけなかったLIVEがあるんですけど、それは単純に忘れたっていうだけです。笑。
レコーディング中もバンドのメンバーに指摘や指示を出さなくてはいけないので、ポーカーフェイスを装うようにかけています。皆さん本気でやってくれている事に対して、僕なりに言わせてもらっているので実は目がスゴく泳いでいます。それを気づかれない為にかけています。やっぱり僕がドーンと構えていないといけないという自負もありますし、変な意味じゃなくそうだと思うので。じゃないと、皆さんも不安だと思うんです、引っ張ってる僕が不安がっていたら。」

自分の身の丈を分かった上での、あえての選択という事がわかる。続けて、氏の人の良さや律儀な一面が垣間見れるこんな話も。

「常にサングラスをかけている以上、態度や振る舞いは丁寧にしないとただの、ぶしつけな奴だと思われてしまうので、そこは意識しています。申し訳ないという気持ちもあります。苦笑。なので、丁寧に接するし、できる限り紳士に対応しています。」

そこまで意識しなくても滲み出る人の良さでカバーできている気がしている。さらに意識することで氏の人の良さや暖かさが増している気がした。こんな面白いエピソードも話してくれた

「サングラスしている事を忘れるんですよ。サングラスしてるのに、探して着けちゃうみたいな。笑」

インタビュー写真6

スタイルに関して今は定着しているけど、氏のクリエイター精神を考えるとさらに10年後には進化しているのかなと思った。やはり、次の事をすでに考えていた。

「変な意味じゃなく、ハゲがカッコいいと思ってきて。今考えているんですよ。
若い子には出せない渋さというか大人のカッコ良さにはハゲは大きな武器になりますね。大人の男の奥深さというか大人の演出がハマるんですよ。新しいハゲの落とし所を今真剣に考えています。」

肩意地はらずに履ける”NewBalance M1400 SB”

Q. BILLY’S でこのシューズを選ばれたのはなぜですか?

「この靴はずっと出てるじゃないですか。何度かマイナーチェンジしてますけど、確か3つ目くらいの形じゃないかな。中期のはもっとソールが反り上がってた気がします。それも好きでしたが、今の1400がとてもカッコいいと思っています。1400買うなら今の形だなというくらい。」
「この色は常に出ていますしね。一時期1400が生産中止になってしまうという噂があったのですが、今もなお作り続けてくれて嬉しいですね。流行にもハマっていますし。」

前途した氏の考えにぴったりハマる普遍的なモデルの1400

「もちろん、576とか1300も好きです。ただ、1300は5年周期でリリースされるから中々手に入らない。ということもあり、1400を履いていて壊れても修理してもらって履いています。」
「色々試して、行き着いたのが普遍的な物で固めて自分らしさを演出できる1400をはじめとしたこのアイテム達ですかね。それで、自分なりに崩して形成するようにしています。」

パッと見だけでは分からない、けどあえてそのこだわりを執拗に伝えようとしない氏の自然体で変な欲深さがないところが、各方面で絶大な支持を受けている要因の一つだなと。それがあるからこそのクリエイティブな事が常に生まれてくるのだなと感じた。


インタビュー写真7

Photo : Akira onozuka

Profile

かせきさいだぁ / Kasekiceider

1968年静岡県出身。桑沢デザイン研究所卒業。
HIPHOPチーム「TONEPAYS(1990~1993)」解散後、'94年1人で「かせきさいだぁ」を結成。'95年にインディーズ盤『かせきさいだぁ』発表。翌年メジャー盤『かせきさいだぁ』を、'98年に2ndアルバム『SKYNUTS』を発表。
'01年にワタナベイビーとのバンド「Baby&CIDER」結成し'03年にアルバム『BACK TO SCHOOL』を発表。同年ヒックスヴィルの木暮晋也と「トーテムロック」を結成しミニアルバム『TOTEM ROCK ep』を発表。
'08年には「いとうせいこう&ポメラニアンズ≡」のアルバム『カザアナ』に参加。'09年にいとうせいこう、ダブマスターXらと「The Dub Flower」を結成し、ライブ活動。また、音楽以外でも4コマ漫画『ハグトン』を'01年から描き続け自費出版の漫画は現在7巻まで出しており、今ではハグトンを題材にしたアート活動にまで表現の場を拡げ、個展も年に3回ペースで開催されている。
'09年秋からバックバンド"ハグトーンズ"をしたがえ、「かせきさいだぁ」の音楽活動を再開。
'11年、2ndアルバム『SKYNUTS』リリースから13年ぶりとなる待望の3rdアルバム『SOUND BURGER PLANET』を発表した。
'12年秋に『ミスターシティポップ』発売。'13年夏に『かせきさいだぁのアニソング!! バケイション!』発売。
近年、毎夏トーキョー カルチャート by ビームスから、デザインしたTシャツを発売している。
Official Site > http://kasekicider.com/