

第一弾は、俳優・中島歩にフィーチャー。
全十回にわたって、“みちくさ”をするように、気持ちの赴くままに
自身を形成してきたカルチャーについて語ってゆく。
役者として衝撃を受けたのは、相米慎二監督。以前、渋谷のユーロスペースで特集があって、劇場公開作品からテレビ番組まで当時上映されていた全ての作品を観ました。特集上映のために映画館に通うということ自体が初めてでしたし。昔の邦画を映画館で観るということもやったことがなかったので、内容はもちろん体験を含めて印象に残っています。相米慎二の作品は物語も変だし、作劇から演出までこれまで観てきた大衆映画の文法と全然違う。それでいて、アイドルを主人公にした大衆映画も撮っているのが本当に不思議で、こんな面白い人がいるのかと驚きました。
タイの映画監督アピチャッポン・ウィーラセタクンも僕のなかで特別な存在。『ブンミおじさんの森』は映画館で3回くらい観たかな。彼の映画は時間の使い方やサウンドの使い方、映画館という空間の使い方がどれも秀逸で、世の中にある多くの映画のスタイルは、かなり限られたものなのだと気付かされた作品です。
僕が映画に求めることは、とにかく気持ちよさ。心地いい音が鳴っていて、美しいショットがあるだけで十分じゃないかって思うんです。もちろん物語が重要な作品もあるんだけれど、個人的にはストーリーやイデオロギーは二の次、三の次って感じ。例えば、アピチャッポン・ウィーラセタクンの『フィーバー・ルーム』という作品は、映画というよりも光のショーですが、とにかく美しくてずっと観ていられます。
役者として映画と関わらせてもらうようになって、映画館やミニシアターはより身近になりました。作品の舞台挨拶やトークショーでお邪魔する機会も増えて、ある意味職場という感覚にも近いのかな。実際問題、世の中のミニシアター離れが本当に深刻なので、もっと盛り上げなきゃと思っています。なんかかっこいいかもとか、居心地がいいとかどんな理由でもいいから、とりあえず映画館に通ってみるというのもいいのかもしれない。SNSの口コミやネットで下調べせずに、劇場で流れる予告やかっこいいチラシをきっかけに新しい映画と出会って欲しいです。
なかには「なんじゃこりゃ」って作品もあるし、つまらなすぎてずっと印象に残ることもある。僕は東京フィルメックスという映画祭で、『ニーチェの馬』という作品を観たときにそういう感情になりました。それは、砂だらけで風がビュービュー吹いている過酷な映像がモノクロの長回しでずっと映された作品で、上映後に監督が登壇した際に
「退屈な時間を皆さんどうもありがとうございました」と挨拶していて、監督は分かってやっているんだと思ったら、くらっちゃいました。
一見わけの分からないものにわざわざ時間やお金をかけて観るということ自体、ものすごく豊かで贅沢なことだと思います。そういった作品と出会ったことで、僕自身すごく世界が広がったし、映画という表現の多様さや自分の好き嫌いを知ることができると思うから。まずはみんなにも体験して欲しいです。
1988年10月7日生まれ、宮城県出身。2013年に美輪明宏主演舞台「黒蜥蜴」で俳優デビュー。NHK朝ドラ「花子とアン」(2014)、「あんぱん」(2025)、映画『いとみち』(2021)、『偶然と想像』(2021)などに出演。2026年にはテレビ東京「俺たちバッドバーバーズ」で初主演、NHK大河『豊臣兄弟!』にも出演予定。